こんにちは。
今回は院長が神経診察で大切にしている「神経症候学」についてお話ししたいと思います。

「症候」とは「症状と徴候」の短縮語です。
症状は患者さんが自覚する異常で、これをまず問診で聴き出します。
徴候は医師が客観的にとらえた異常所見です。神経学的検査を行って確認します。
神経疾患の症候を実践的、学問的にまとめて整理したのが神経症候学です。

この神経症候学を正しく理解し実践することで患者さんの病気の原因を正しく診断し治療に結びつけることができます。

例えば有名な症候としてワレンベルグ(Wallenberg)症候群があります。
ワレンベルグ症候群では延髄外側部の障害により①障害側の顔面の温痛覚障害、②反対側の頚部以下の半身の温痛覚障害、③障害側の小脳失調、④障害側のホルネル症候群(眼瞼下垂、縮瞳など)、⑤構音障害、嚥下障害などの症候を来します。
具体的な自覚症状としては「お風呂で温度が感じにくい」、「手が上手く使えない」、「歩くとふらつく」、「呂律が回らない」、「水を飲むとムセる」などです。
原因は椎骨動脈の脳梗塞がほとんどですが、その中には若い人でも発症する動脈解離による場合があるので注意が必要です。

さらに注意が必要なのは、非常に小さな領域の脳梗塞なので、発症して間もない内はMRIを撮っても異常を指摘できないことがあるということです。
繰り返しMRIを撮影したり別の横断面のMRIを撮影して初めて病変を見つけられることもあります。
そのため、特徴的な症状と兆候の組み合わせからこの疾患を想定することが重要です。

こうした神経症候学の習得は一朝一夕でできるわけではありません。
私の場合、特に公立陶生病院の専門研修で神経内科の基礎を学んだ際に、すぐにMRIを撮るのではなくしっかりと患者さんを診察して神経症候学から病変や病態を推測した上でMRIを確認する、というトレーニングを行なったおかげで今の自分があると考えています。

当院はCTやMRIを院内に設置していませんが、神経症候学を基にした神経診察により患者さんの病気や病態を診断し、CTやMRIの必要性を判断しています。
診察の結果、緊急対応が必要な場合は即日信頼できる高次医療機関へご紹介しています。
緊急性はないけど、MRI等の詳しい検査を確認した方が良い場合はご本人と相談して連携先の病院で検査の予約を取っています。
ワレンベルグ症候群でも述べたように、想定する病気や病態によってMRIの撮影方法を工夫してより正確に診断できるよう検査を依頼しています。

長くなってしまいましたが、当院で大切している診療方針です。
こうした神経診察は病気や病態によってかなり時間がかかる場合があり、他の患者さんをお待たせしてしまうことがあります。
申し訳ございませんが、どうかご理解いただけますと幸いです。