こんにちは。
お盆休みに伴い本日8月10日より17日まで休診させていただいております。
ご迷惑をおかけしますが、ご理解のほどお願い申し上げます。

前回のコラムでは認知症の神経病理学についてお書きしました。
今回は当院で行っているもの忘れ外来についてお話ししたいと思います。
お盆の帰省でご家族にお会いになられた際に、気になる症状がないかご確認ください。

もの忘れと認知症

加齢とともに記憶力が低下し、忘れっぽくなることは避けられません。
正常加齢に伴うもの忘れと認知症はどう違うのでしょうか。

認知症とは

認知症とは「様々な原因により、一度正常に発達した認知機能(記憶、判断力など)が脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障を来した状態」をいいます。
あくまでも状態を指す言葉なので、その原因となる病気は様々です。

認知機能の障害で最も多いのが記憶の障害で、特に最近起こった出来事の記憶(近時記憶)が早期に障害されやすいと言われています。
直前に質問したことや自分が話した内容を忘れて、同じ質問や話を繰り返したり、ものを置いた場所を忘れて探し回ったりします。
一方で昔のこと、若いころに何をしたか、どこに住んでいたか、などはよく覚えていることが多いです。
時間(今がいつか)、場所(ここはどこか)、人物(この人は誰か)を判断する能力を見当識と言いますが、日時の見当識障害も早期に出やすい症状の一つです。

日常生活の支障とは、例えば以下のようなものが挙げられます。
・薬を飲んだかどうか忘れて飲み忘れや重複して飲んでしまう
・家事や仕事が上手くできない
・出かけたときに迷子になってしまう

このようなことが繰り返し生じる場合は、認知症の可能性について一度診察を受けていただくことをお勧めします。

軽度認知障害(MCI)とは

軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)とは、「記憶障害などの軽度の認知機能の障害が認められるが、日常生活にはあまり支障がないため、認知症とは診断されない状態」をいいます。

MCIは認知症の前段階として注目されていますが、すべてのMCIの人が認知症に進行するわけではありません。
MCIの人のうち年間で10~15%が認知症に進行すると言われていますが、その一方でMCIの人の10%以上は生涯にわたって観察しても認知症に進行しないとも報告されています。
こうした違いはMCIという状態を引き起こす原因の違いによると考えられています。

MCIでも近時記憶の障害が起きやすいとされていますが、MCIの原因によっては記憶以外の認知機能の障害で始まる人もいます。
一方で、複雑な作業や新しいことをするのに多少の支障があっても、基本的な日常生活機能は保たれている点が認知症との違いです。

「加齢によるもの忘れ」と区別ができるのか

65歳以上の高齢者を対象にした令和4年度の調査の推計では、認知症の人の割合は約12%、MCIの人の割合は約16%とされ、両方を合わせると、3人に1人が認知機能にかかわる症状があることになります。(政府広報オンライン参照)
さらには年齢が高くなるとともに有病率は増加し、5歳毎に倍増するとも報告されています。
他人事ではないですよね。
ご自身やご家族、身の周りの方でも気になる症状はないか、気を付けて見ていただくと良いと思います。

ただし加齢に伴って、多少のもの忘れは誰にでも生じます。
どのように区別したらいいでしょうか。

上の政府の広報サイトでは、次のような例を挙げています。

加齢によるもの忘れの場合、
・体験したことの一部を忘れる
・もの忘れの自覚がある
・症状は極めて徐々にしか進行しない

認知症によるもの忘れの場合、
・体験したことの全てを忘れている
・もの忘れの自覚がない
・症状は進行する

典型的な場合や進行した場合は確かにそうですが、初期の場合は必ずしも上記が当てはまらないことも多々あります。
一番大事な点は最後の「症状が進行するかどうか」です。
さらにはその背景に認知症の原因となる病気が隠れているかどうか正しく判断することで、今後進行するかどうか推測できます。

当院のもの忘れ外来で大切にしていること

当院では、上で述べたような一見しただけでは判断が困難な、加齢によるものわ忘れと認知症を区別し、認知症であればその原因を正しく診断し、適切な治療につなげること、を目的にもの忘れ外来を開設しております。

例えば、認知症の原因として最も多いアルツハイマー病の場合、前回のコラムでお話ししたアミロイドβやタウといった異常タンパク質が脳に溜まってきますが、実は認知症のない健康な高齢者の脳でもこれらの異常タンパク質が溜まっています。
アルツハイマー病と神経病理学的に診断するには異常タンパク質の蓄積の量と広がりの程度が基準を超えていることを確認する必要があります。
残念ながら日常的な診療のレベルでこのことを生前に確認する検査はまだ実用化されていません。

当院のもの忘れ外来では、ご本人およびご家族に詳しくお話を伺ったり、詳細な神経学的検査を実施することで、認知機能の各項目(記憶、思考、見当識、計算、言語、遂行機能、視空間機能、注意など)の障害の有無と程度を評価し、日常生活機能と併せて正常(加齢による範囲内)、MCI、認知症のどれに該当するかを診断しています。
正常やMCIと診断された方でも、経過とともに進行する場合がありますので半年から1年毎に再評価することをお勧めしています。
MCIや認知症の原因によっては適切に治療することで正常の状態に回復できる病気もありますので、原因を正しく診断することも大事です。

認知症の原因となる病気については次回のコラムでまとめたいと思います。

<参考文献>
日本認知症学会(編) 認知症テキストブック 中外医学社
中島 健二 / 天野直二/ 下濱 俊 / 冨本 秀和 / 三村 將 (編) 認知症ハンドブック 医学書院


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内科・脳神経内科・循環器内科・小児科
徳重クリニック
院長 池田知雅
神経内科専門医、認知症学会専門医
頭痛外来、もの忘れ外来