こんにちは。
前回に引き続き認知症の原因となる病気について、今回はアルツハイマー病やレビー小体型認知症と区別が必要な代表的なものについてお話しします。
脳血管障害、脳血管性認知症
脳卒中で挙げた、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血はいずれも認知機能障害の原因になります。
脳卒中として発症する場合はある日突然、症状が出現するため一般的な認知症のイメージとは異なるかと思いますが、その後遺症として記憶や計算などの障害が残る場合があります。
脳梗塞の場合は血管が詰まってその先の領域へエネルギーが供給できず、神経細胞もやられてしまいます。
脳出血の場合は血管が破れて広がった出血(血腫)が正常な脳組織を圧迫するためエネルギー供給が上手くいかず、同じように神経細胞がやられます。
やられた神経細胞が担っていた脳の機能は障害されますので、それが後遺症として残存します。
交通事故や転倒などで脳が損傷し後遺症が残った場合も含めて、「高次脳機能障害」といって徐々に進行する認知症とは区別して呼ばれる場合もあります。
一方で知らないうちに小さな脳血管障害(脳梗塞や脳出血)が起こっていても気づかれず、それが少しずつ増えていくことで階段状に悪化する場合もあります。
認知機能障害が前面に立って、その原因が脳血管障害と診断される場合に脳血管性認知症と言います。
認知症の原因として脳血管性認知症はアルツハイマー病に次いで多いと報告されています。
いずれの場合も脳血管障害の部位と種類によって経過も症状も様々ですが、MRIやCTでそれを説明できる病変を認めることが診断のカギになります。
以前のコラムで述べたように脳血管障害のリスクとなる生活習慣(病)をコントロールすることが症状を進行させないために重要です。
治療可能な認知症
認知症の原因の中には早期に発見して治療をすれば劇的に症状が良くなるものも含まれます。
これらの病気をtreatable dementia(直訳で治療可能な認知症)と言います。
慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、中枢神経系感染症、炎症性疾患・自己免疫性疾患、内分泌異常、代謝性疾患、薬物、アルコール、うつ病など多岐にわたりますが、その中でも頻度が多く皆さんに知っておいて欲しい病気を以下で説明します。
正常圧水頭症
脳の病気でtreatable demetiaの筆頭が正常圧水頭症です。
脳はその周りを脳脊髄液という液体で満たされています。
脳脊髄液は脳の中央付近に位置する脳室で作られ、脳や脊髄の周りを循環してくも膜下腔から吸収されます。
水頭症とはこの脳脊髄液の吸収・循環障害によって脳室が拡大した状態で、それによって脳の機能障害を引き起こします。
典型的には思考緩慢や記憶力の低下などの認知機能障害、歩行障害、尿失禁がよく見られますが、一部の症状しか認めないこともあります。
CTやMRIで特徴的な変化を認めることが診断のカギとなり、脳脊髄液排出試験(タップテスト)で症状の一時的な改善が認められればシャント手術をすることでその効果が維持できます。
甲状腺機能低下症(橋本病)
内科的な病気での筆頭は甲状腺機能低下症(橋本病)でしょう。
甲状腺ホルモンは、心臓や肝臓、腎臓、脳など全身の臓器に作用して代謝を盛んにするなど、大切な作用を持つホルモンです。
この甲状腺ホルモンが少なくなると、動作とともに精神活動も緩慢になり、集中力の低下、傾眠、感情鈍麻、記憶障害などを来すことがあります。
高齢女性で特に頻度が多く、浮腫、低体温、低血圧、徐脈などの全身の症状も認める場合があります。
血液検査で甲状腺ホルモンの数値を測定することで診断でき、お薬を内服すると症状が改善します。
アルコール関連
多量飲酒歴がある方は要注意です。
アルコールを分解する際にビタミンB1が消費されます。
飲酒量が多く、ビタミンB1の摂取が不足している場合、ビタミンB1が欠乏し脳の機能障害を起こすことがあります。
急に症状が進む場合は、意識障害、運動失調(ふらふらする)、眼球運動障害(物が二重に見える)を来し、ウェルニッケ脳症(Wernicke脳症)と呼ばれます。
このウェルニッケ脳症が改善した後、作話傾向のある記憶障害が後遺症として残った状態をコルサコフ症候群(Korsakoff症候群)と言います。
治療はビタミンB1の補充です。
一方でアルコールやそれ以外の原因で肝臓の障害が進んだ場合、アンモニアの血中濃度が高くなり肝性脳症を発症する場合があります。
倦怠感からはじまり、抑うつ状態、記憶障害、ときには錯乱状態に陥ったり人格変化を認める場合もあります。
さらに進行するとけいれんしたり、意識障害が進んで昏睡状態に至ってしまう場合もあります。
治療は食事の調整やお薬を投与して、アンモニアの濃度を下げることです。
いずれの場合も禁酒が一番大事なことは言うまでもありません。
睡眠時無呼吸症候群
いびきは睡眠中に気道が狭くなることで空気が通るときにのどが振動して音が鳴るものです。
気道がさらに狭くなると息が吸えなくなり無呼吸となります。
これが頻繁に起こって様々な症状を伴う場合を睡眠時無呼吸症候群と言います。
無呼吸になると脳が部分的に覚醒し呼吸が再開されますが、脳の覚醒が頻繁に起こると睡眠の質は低下します。
そのため、朝起きたとき頭が重く、昼間も眠気が強く、集中力が低下します。
交通事故の危険性も数倍高くなることが報告されています。
中年期以降の肥満男性に多いですが、日本人は骨格の問題で痩せている人にもしばしば認められます。
もの忘れ外来に来られる方で多いのは、「最近仕事でミスが増えた」「上司に言われて受診した」というケースです。
最も効果的な治療は睡眠中マスクを装着して圧をかけることによって気道の狭窄を解除するCPAP治療(持続陽圧呼吸療法)です。
簡易検査だけでCPAP治療の適応になる1時間当たりの無呼吸低呼吸の回数が40回以上の重症睡眠時無呼吸症候群の方でも、CPAP治療が上手くいけば1時間当たり5回以下まで無呼吸が減ります。
睡眠の質が改善し日中の眠気が減ったり集中力が上がって仕事の正確性や効率も上がります。
また睡眠時無呼吸症候群の方は動脈硬化が進行して起こる脳梗塞や心筋梗塞などを発症するリスクも高くなります。
CPAP治療をしっかり行えばこれらの病気を発症するリスクも低減できますので、その点でも早く見つけて治療することが重要です。
まとめ
今回はアルツハイマー病やレビー小体型認知症と区別が必要な認知症の原因として、皆さんに知っておいていただきたい病気をお話ししました。
認知症=アルツハイマー病ではない、ということを分かっていただけたかと思います。
当院のもの忘れ外来では、認知症の原因を正しく診断し、適切な治療につなげる、をモットーに診療を行っています。
詳細な問診と丁寧な神経学的検査を行って、鑑別診断をしておりますので通常の診察よりかなり時間がかかってしまいます。
完全予約制にて承っておりますので、もの忘れ外来Web予約サイトもしくは、診療時間内にお電話(0568-24-3456)にてご予約ください。
お待ちしております。
<参考文献>
日本認知症学会(編) 認知症テキストブック 中外医学社
中島 健二 / 天野直二/ 下濱 俊 / 冨本 秀和 / 三村 將 (編) 認知症ハンドブック 医学書院
Ikeda Toshimasa, et al. Atrophic mammillary bodies with hypointensities on susceptibility-weighted images: A case-study in Korsakoff syndrome. Journal of the Neurological Sciences 2020; 408: 116551-116551.
北名古屋市 徳重・名古屋芸大駅徒歩3分
内科・脳神経内科・循環器内科・小児科
徳重クリニック
院長 池田知雅
神経内科専門医、認知症学会専門医
頭痛外来、もの忘れ外来