こんにちは。
ゴールデンウイーク中は休診をいただきご不便をおかけいたしました。
5月7日から診療を再開しておりますのでよろしくお願いいたします。
さて本日は片頭痛の特効薬シリーズの第3弾、片頭痛診療のゲームチェンジャーとも言われているCGRP関連抗体薬です。
CGRPとは
CGRPとはカルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide)の略称です。
ペプチドとはアミノ酸が2個以上結合した状態のもので、タンパク質よりも小さな分子です。
このCGRPは我々の身体の中では三叉神経節や後根神経節に存在しています。
片頭痛患者さんで発作時に血液中のCGRP濃度が有意に高値であることなどから注目され、その後片頭痛患者さんにCGRPを投与すると片頭痛様発作が誘発されることが報告されました。
現在想定されている片頭痛のメカニズムとして三叉神経血管説がありますが、この説では何らかの刺激により血管に分布する三叉神経からCGRPを含む神経ペプチドが過剰に放出され、血管拡張や炎症を引き起こし、その興奮が脳の痛みを感じとる領域に伝わって「頭痛」として知覚されると考えられています。
つまり、CGRPは片頭痛における疼痛発生のメカニズムに大きく関与するペプチドであるといえます。
CGRP関連抗体薬
このCGRPをブロックすることで片頭痛の発作を予防しようと開発された薬が、今回取り上げるCGRP関連抗体薬と次回取り上げるCGRP受容体拮抗薬「ゲパント」です。
ペプチドが作用して我々の身体の中でその役割を果たすためには受け取り側に発現している受容体に結合する必要があります。
三叉神経から放出されたCGRPが血管側の受容体に結合するのを阻害することで片頭痛の発作を予防しようというわけです。
一方で、病原体などの異物が体内に入ってくると、その異物の特徴的な構造(抗原)と結合する「抗体」をつくり、異物を排除する働きをもっています。
これは「抗原抗体反応」と呼ばれ、人間にもともと備わっている免疫機能です。
「抗体薬」は、この仕組みを利用した薬です。
病気の原因となっている物質に対する抗体を体内に入れ、病気の原因を排除することで、予防や治療をおこないます。
抗体薬はがんや関節リウマチなどの自己免疫疾患の領域で使われてきました。
たくさんの抗体薬が世に出て一般的になってきたことで、ついに片頭痛の治療薬としても使えるようになったのです。
抗CGRP抗体薬 エムガルティ®、アジョビ®
CGRP自体を標的(抗原)とした抗体薬が「エムガルディ®」と「アジョビ®」です。
どちらもCGRPに抗体薬が結合することで、そのはたらきを抑え片頭痛の発作が起きるのを抑えることができます。
両者の違いは投与方法です。
エムガルティは初回に2本皮下注射し、その後は1ヵ月間隔で1本注射します。
より早く血中濃度が上昇し安定した状態になると考えられています。
ただし、初回は2本分の費用がかかります。
アジョビは初回から4週間毎に1本ずつ皮下注射します。
慣れてきた方は12週間に1回、3本まとめて注射をする方法も選べます。
例えば海外出張などで4週間毎の注射が困難な場合などは良い選択肢になると思います。
抗CGRP受容体抗体薬 アイモビーグ®
CGRPが結合する先の受容体を標的(抗原)とした抗体薬が「アイモビーグ®」です。
CGRP受容体に抗体薬が結合することで、CGRPが受容体と結合するのを阻害して、そのはたらきを抑え片頭痛の発作が起きるのを抑えます。
アイモビーグは初回から4週間毎に1本ずつ皮下注射します。
薬の種類は異なりますが、作用の仕方はCGRP受容体拮抗薬である「ゲパント」と似ています。
当院では抗CGRP抗体薬で効果不十分であった方にお勧めしています。
CGRP関連抗体薬の特徴
CGRP関連抗体薬の一番の特徴は、片頭痛のメカニズムを狙ってピンポイントで作用するので効果が高くて副作用が少ないことです。
従来の内服予防薬は、てんかんや高血圧など片頭痛以外の病気のための薬として開発されましたが、実は片頭痛の発作を減らすことが後にわかって使えるようになったものがほとんどです。
一方でCGRP関連抗体薬は上の説明の通り、片頭痛のメカニズムに注目して、最も効果的なポイントに作用するよう開発されたものです。
治験のデータになりますが、どのCGRP関連抗体薬も平均して月の頭痛日数をおよそ半分に減らすことができたと報告されています。
また、治療開始前の頭痛の頻度が少ないほど効果が高いとも報告されており、中には月1回あるかないかくらいまで頭痛を減らせる方もいらっしゃいます。
(※当院での治療経験によるものですが、効果には個人差があります。)
また従来の内服予防薬で問題になっていた、眠気やふらつきなどの副作用が少ないのもメリットです。
一方でネックとなるのは費用です。
CGRP関連抗体薬は3割負担の方で1本およそ12,000~13,000円です。(令和8年5月現在)
これは生物学的製剤である抗体薬に共通するものですが、最新のバイオテクノロジーを用いて開発されるため莫大な研究開発費がかかることと、生物(細胞)から作られるタンパク質であるため生産と安定的な品質管理に高度な技術とコストを要するため、薬の値段も高くなってしまいます。
それでも、がんの抗体薬などと比べるとはるかに薬価は抑えられています。
またタンパク質製剤のため内服では分解されてしまうので、点滴や皮下注射が必要な点も抗体薬共通の注意点です。
CGRP関連抗体薬はいずれも皮下注射ですが、全て自己注射が認められています。
4週間もしくは1か月毎に受診日を合わせて来院いただく必要がなくなるので、お忙しい方にはお勧めしています。
簡単に投与できるようどの薬もデバイスが開発されていて、当院ではおよそ8割の方が自己注射で投与されています。
導入時には熟練のスタッフが指導を行いますので安心して治療を開始できます。
CGRP関連抗体薬がお勧めされる方
- 従来の内服予防薬を用いても頭痛が平均週1回以上ある方
- 1回の頭痛発作の程度がひどくて、寝込んでしまったり、何日も続いてしまう方
- 片頭痛から解放されたい方
特に3つ目の目標は「Migraine Freedom」として国際頭痛学会の2025年 Position Statement ではじめて言及された目標です。
頭痛日数ゼロを目指すだけでなく、患者さんが感じる生活上の支障や心理的負担といったすべての症状・負担から解放されることも含まれます。
CGRP関連抗体薬の登場によって、これまで達成することが難しかったより高い目標を設定することができるようになっています。
諦めずに一緒に片頭痛からの解放を目指していきましょう。
<参考文献>
日本頭痛学会 CGRP 関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版)
Sacco S, et al. Cephalalgia 2025; 45(2): 03331024251320608.
竹島多賀夫(編著) 頭痛治療薬の考え方、使い方 改訂2版 中外医学社
北名古屋市 徳重・名古屋芸大駅徒歩3分
内科・脳神経内科・循環器内科・小児科
徳重クリニック
院長 池田知雅
神経内科専門医、認知症学会専門医、頭痛学会
頭痛外来、もの忘れ外来
