こんにちは。
梅雨明け間近ですが、急に暑くなっていきなり夏本番の様相ですね。
急に暑くなるこの時期に特に注意しなければ熱中症です。
愛知県も今シーズン初めての熱中症警戒アラートが今日明日と発表されました。(7月15日17時発表)

連日ニュースでも注意喚起されていますが、改めて熱中症の注意点についてお伝えしたいと思います。

熱中症はどうして起こるのか

人は環境によって体温が変動するカエルや魚などの変温動物とは違って、37℃前後の狭い範囲に体の温度を調節している恒温動物です。
体内では生命を維持するために多くの営みがなされていますが、そのような代謝や酵素の働きからみて、この温度が最適な活動条件なのです。 
私たちの体では、運動や体の営みによって常に熱が産生されるので、暑い環境でも、異常な体温の上昇を抑えるための、効率的な体温調節機構が備わっています。

具体的には、末梢血管が拡張し皮膚の近くに多くの血液が分布して、外気への放熱により体温低下を図ることができます。
また汗をかくことで、汗の蒸発による気化熱で体温を下げることができます。

しかし、外気温が高くなると熱を逃しにくくなり放熱の効果は下がります。
汗を大量にかくことで体温低下を図りますが、汗をかくと水分や塩分が体外に出てしまうために、体内の水分・塩分が不足してしまいます(脱水、電解質異常)。
脱水状態が続けば、汗による気化熱での体温低下も難しくなり、体温が上昇してしまいます。

一方で、皮膚血流を維持するために内臓を養っている血管は収縮し、私たちの体内で本来必要な重要臓器への血流が不足してしまいます(臓器虚血状態)。
その状態が長時間続くと、重篤な感染症のときと同じような過剰な免疫反応が惹起され、血液が固まりやすくなって循環不全が悪化し、さらに臓器虚血が進行するという悪循環に陥ってしまいます。

このような状態が熱中症です。
つまり熱中症は、異常な暑熱環境下で体温調節機構が破綻し、脱水、電解質異常、臓器障害によって生命の危険が差し迫った緊急事態なのです。

熱中症による脳・神経の症状

一方で、体の臓器の中で最も血流を必要としている臓器が脳です。
また脳を構成している神経細胞は温度上昇にとても弱いことも知られています。
熱中症の程度によって様々な脳・神経の症状が認められます。

  • Ⅰ度(軽症)めまい立ちくらみこむら返り(筋けいれん)
  • Ⅱ度(中等症)頭痛嘔気・嘔吐倦怠感集中力や判断力の低下
  • Ⅲ度(重症)意識障害全身けいれん小脳失調(まっすぐ歩けない)

(日本神経救急学会 熱中症重症度分類より)

熱中症で認知症になる?

上で述べたように、熱中症が体温調節機構の破綻による脳の臓器障害であるということは、それが重篤であるほど治療を行っても完全には回復できない可能性があることが想像できるかと思います。

日本救急医学会熱中症検討特別委員会が実施した調査では、熱中症の患者1,441例中、中枢神経系(脳)の後遺症は22例(1.5%)で認めたと報告されています。
後遺症のあった22例のうち21例は重症度分類Ⅲ度(重症)の熱中症で、死亡を除くⅢ度(重症)の熱中症の患者の中では6.8 %で後遺症を認めました。
後遺症の内容は、高次脳機能障害(15例)が最多で、他には嚥下障害(6例)、小脳失調(2例)などとなっています。
最も重篤なものでは植物状態のまま回復しなかった例もありました。

ちなみに、高次脳機能障害とは脳損傷に起因する認知障害全般を指し、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが含まれます。
内容としては認知症による認知機能障害と重なると思われるかもしれません。
一般的には「認知症」はアルツハイマー病に代表される進行性の病気を指す言葉として用いられて、「高次脳機能障害」は脳卒中や頭部外傷などの後遺症としての障害を指す場合が多いです。
ただし、「熱中症の後遺症で認知機能の障害が残る可能性がある」と理解していただいても問題ないと思います。

高齢者では特に注意が必要

地球温暖化の影響もあるのか、近年の夏の暑さは災害級と言えるレベルです。
それに伴い熱中症による死亡者数も増加傾向で、2018年以降は1,000人を超える年が続いています。
熱中症死亡者全体に占める65歳以上の高齢者の割合は、1980年33%、2000年50%、2020年87%と急増しています。

高齢者では自律神経の働きが低下し、最初に述べた体温調節機能が低下しています。
体内の水分量も加齢とともに低下することが知られていて、発汗によって脱水状態になりやすいと考えられます。
また暑さやのどの渇きを感じにくくなっており、環境の変化に対する行動が遅れがちです。
また、基礎疾患があるほど熱中症は重症化しやすく、認知症の方ではエアコンを適切に使えなかったケースも見られます。

こうした原因で高齢者では、熱中症になりやすく、かつ重症化しやすいと言えます。
高齢者の熱中症を予防するためには、以下の点が特に重要です。

  • のどが渇く前にこまめな水分補給
  • 日中の暑い時間帯は外出を避ける
  • エアコンを適切に使用
  • 体感ではなく温度計で室温管理
  • 家族や周囲の人が定期的に見守り確認する

また重症化する前になるべく早く治療することで後遺症を防ぐことができます。
少しでもおかしいなと思ったらすぐに病院を受診するようにしてください。

<参考文献>
環境省 熱中症環境保健マニュアル 2022
中村俊介ら, 熱中症による中枢神経系後遺症 JJAAM. 2011; 22: 312-8
葛目大輔ら, 頭部 MRI 画像で広範な大脳半球病変を呈した熱中症の 1 例 臨床神経 2015; 55: 833-9


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院長 池田知雅
神経内科専門医、認知症学会専門医
頭痛外来、もの忘れ外来